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映画「ツレがうつになりまして」を観て

この映画と原作の漫画がブームになったのは2010年付近なので、もうそれから十年も経つんですね。アマゾンプライムで見つけて懐かしく思ったので見てみました。

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この作品はタイトルの通りうつ病をテーマにしたもので、うつになった"ツレ"を堺雅人が、それを支える妻を宮崎あおいが演じています。

 

テーマがテーマだけに、この病気に馴染みのない人にとっては衝撃的な表現が多々あるとは思う一方、身近にこの病気を抱えている人がいる人にとっては随分マイルドな表現に感じられるかもしれません。

後者である私の感想としては、うつ病の症状自体はかなりリアルに表現されているものの、周囲の者の苦労や理解についてはかなり美化されているように感じました。

 

この病気は、ウイルスなどによって他人に感染する病気ではありませんが、近くにいることで影響され、同じ病気を発症してしまうケースはままあると言われています。それほどまでに身近な人に影響を与える病気なのです。

 

 

例えば、この病気の人は飛躍した論理で自分を責めたりすることがあります。

そのような場合、その論理の飛躍を冷静に指摘して、自分を責める必要はないのだと伝えてあげる、ということが一般的な手法だと思われますが、これが何日も続けばどうでしょう。

二三日であれば優しく言葉をかけてあげることができるでしょうが、1週間、2週間、1ヶ月というふうに続いていくと、どんなに優しい人でも少しウンザリしてしまうのではないでしょうか。

すると、いくら病気に対して配慮を持って接することを意識していても、人間ですからトゲトゲとした感情を見せてしまうことがあります。

 

この映画では、ハルさんが怒る→ツレが自殺未遂をする→ハルさんが気づいて反省する、というステップが一日のうちに発生しているため、早期の問題解決ができています。

しかし、現実には、

ハルさんが怒る→ツレが落ち込む→ハルさんが怒る→ツレが落ち込む→…というステップを何度も何度も循環し、そのストレスがある日突然許容できる範囲を超えて、ツレが自殺未遂をするということに繋がってしまうのです。

そのため、ハルさんが気づいて反省するというステップをとることが出来る時には、既に手遅れになることがある、ということがこの病気の恐ろしさでしょう。

 

 

またこの病気は、真面目で几帳面で優しく、責任感が強い人が発症してしまうことが多いです。そのため、周りに迷惑をかけまいと自分のストレスを1人で抱え込んだ結果、限界が来た時に衝動的に行動に踏み切ってしまう点にも恐ろしさがあります。

 

 

 

少し作品から話が逸れてしまいましたが、上述のように多少美化された部分はあれど、この作品は総じて高い評価を受けるべき作品です。

以下にそのポイントを列挙します。

 

 

①症状がリアル

「電車に乗れない」「携帯電話がこわい」というのはこの病気の典型的な症状です。また、これらの症状が前ぶれなく突然あらわれるという点についても上手く表現されていたと思います。

 

うつ病といっても、24時間365日笑えないくらい辛いという人はなかなかいません。作中でも描写がありましたが、雨などの天気や、夜などの特定の時間帯に症状が悪化するなど、その症状の程度にはムラがあります。

だから、この病気の人に対して「あの時はできてたのに、なんでできないの?」などといった言葉は禁句なのです。

 

また、病気が再発して自殺を及んでしまった青年の存在をカットせずに示したこともか良かったです。

この映画では、再三うつ病心の風邪という表現がありましたが、その症状の深刻性は風邪の比ではありません。この点、誤解を防ぐことが出来たのではないでしょうか。つまり、「うつ病心の風邪」という言葉はあくまで病気の発症過程の話であって、症状の軽重に言及したわけではないのです。

 

 

②周囲の理解のなさがリアル

会社の上司は論外としても、実はハルさんでさえ、物語の序盤にはこの病気の人に対する禁句を何回も口にしています。

例えば、「ただ疲れてるだけだよ、風邪じゃない?」とツレの痛みにまともに取り合わなかったり、寝癖など本人の出来ていないところを何度も指摘するなどです。

 

しかしその後、ハルさんは病気に対する理解を深め、「会社なんてどうでもいいんだよ」とツレが感じる責任を軽減させたり、「何も出来ないんじゃなくて、何もしないだけ」とツレの罪悪感を軽減させたり、「会社辞めないなら離婚する」など強引に迫るなどしてツレを守っています。

(もっとも、3つ目のセリフに関して、この病気の人に過度な精神的負担を与えることは危険ですから、全ての人に対してこのような言葉が有効であるとは限らないことには留意すべきでしょう。)

 

このようにハルさんの理解が進んだことを象徴するシーンが、ツレの兄の訪問です。

理解がないからとはいえ、ツレの兄の発言はひどいものでしたね。「土足で踏み込まないで欲しい」というハルさんの言葉は、ツレの唯一の味方として力強く感じました。

 

そして後から気づいたのですが、ハルさんは一度だって、ツレが病気になったことを責めていないんですよね。

このような理解者が身近で支え続けてくれたツレは、本当に恵まれていると思います。

 

 

③再発の可能性を強調

この映画は完全なハッピーエンドではありません。なぜなら、この病気は再発の可能性が非常に高く、ツレの病気の心配が無くなったとは言えないからです。しかしこの点、ツレはこの病気と上手に付き合っていく決意を表明していましたね。このために必要な努力は、並大抵のことではありません。油断は禁物です。

にもかかわらず、彼らならこの先の困難や試練を何とか乗りきっていくだろうという安心感と信頼を視聴者が抱くことができたことが、彼らの成長を表していると思います。