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山田尚子と「聲の形」の親和性と川井みき

山田尚子監督の代表作といえば、「けいおん!」です。女子高生の日常を細やかに描いたこの作品は大ヒットし、彼女の名前を世に知らしめることになりました。

 

しかし、私にとって山田尚子監督の代表作は、「リズと青い鳥」です。けいおん!が爽やかな女子高生の日常を描いたのに対して、「響けユーフォニアム」シリーズのこの作品は、ドロドロとした感情を丁寧に描いた作品です。そして、山田尚子監督は、言葉に形容しがたいドロドロとした関係性を描写するのが恐ろしい程に巧みなのです。

 

山田尚子監督の特徴は、キャラクターを美化しないことにあります。

リズと青い鳥で描かれた不和については、前記事を参照いただくとして、

実際に「聲の形」では、

池田は自分のことで手一杯で周りの声を聞かないように生きているし、西宮は空気が読めず、植木は思ったことをすぐ口にする子供だし、川井は自分保身が最優先です。

作品を通して正しい選択肢を取り続けたキャラクターは皆無なのではないでしょうか。

 

しかし、だからこそ人間らしくて愛らしいし、視聴者が感情移入しやすいのだと思います。

 

私が一番人間らしいと感じたキャラクターは、川井です。

池田が指摘したように、彼女はいつも自分が可愛いだけで、その時その時の長いものに巻かれ、責任を他人に押し付けて生きています。その不快感には、Twitterで #川井を許すな がトレンド入りしたほどです。

 

しかし、彼女のイメージが変わる一言があります。

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「自分のダメなところも愛して前に進むの」

自殺をはかった西宮に、彼女がかけた言葉です。自分を愛することができない西宮に対して、川井はある意味自分を愛することに長けているのです。

 

つまり川井は、主体性のなさを自覚しつつもそれを良しとすることで、生きているたくましい人なのかもしれません。これは無自覚な生存本能に近いものがあるのでしょう。

 

では私たちは、彼女のこのようなしたたかさを否定することができるでしょうか。

自分を持って行動すると辛いことがあります。例えば、西宮を助けた笠井さん(名前がうろ覚え)は、周囲からの攻撃に耐えきれず学校を去ってしまいました。

それに比べると川井は、周囲から嫌われ気味ではあるものの、その悪意は大きく顕在化することなく、無難な日常生活を過ごしているわけです。

 

もちろん川井の言動全てをを是とすることはできませんが、彼女を責めることも私にはできませんでした。